魅力的なキャラクターは、読者を引き込む小説の要となるものです。しかし、多くの初心者作家が「キャラクターが薄い」という理由で編集者や読者から厳しい評価を受けています。本記事では、ベストセラー作家や編集者の助言を基に、読者が共感し、物語を動かす魅力的なキャラクターを作る具体的な方法を、実践的なワークシートと共にご紹介します。
主人公のキャラクター設定
プロットを作成する過程で、主人公や他の登場人物について、決めておかなければならないことがあります。それらの作業について順次進めていきましょう。
小説のあらすじをイメージして膨らませるテクニック~イマジネーションはストーリーを育む~
でも解説したように、頭のなかで描いた登場人物のイマジネーションをしたケースでは、その後に整理する作業が必要になりますので、このあとにその要領をまとめてみます。イマジネーションをした方法以外でも、登場人物を考える際には参考にしていただきたいと思います。
設定のしかた
まず、要になる主人公の設定について考えてみましょう。物語には主人公に近い人物がほぼ存在します。その主人公はどんな人物なのか、読者にわかってもらわなければなりません。性別、氏名、性格、身なり、職業などをあらかじめ想定し、プロット(筋書きなどをまとめた物語の構想)の一部分にまとめておくとよいでしょう。
主人公は何かしらの事情を抱え、その問題解決のために奮闘するなどした、物語の主役としてふさわしく、適正な人格を設定するようにしてください。
性別・年齢・名前
まず、主人公自体を男性にするのか、あるいは女性にするのかを決めましょう。イマジネーションで創り上げた人物は概ね性別は決まっているものとして、あとは年齢の設定によってキャラクターの性格づくりは大きく変わります。頭に描いていたイメージに近い設定をしていくのが自然です。
世の中に出まわっている小説では、主人公を男性にすることが圧倒的に多いことがわかるかと思いますが、特に著者が男性の場合は、女性像を描くことについては典型的な女性に陥りがちになります。個性のない言葉遣いになりやすいため、観察力・感性を発揮して個性豊かな人物を創りあげるようにしましょう。
名前の付け方での注意点
●読みにくい漢字を使わずに、平易に読めるもので、よみがなで混乱が生じない名前 例:長谷治郎(読み方が「ながたにじろう、ながたにはるお、はせじろう、はせはるお」等で読者が混乱をきたす)
●キャラクターの性格に合致する名前が印象に残りやすい 例:勇猛果敢で才知が優れている男性→「勇」、「剛」、「豪」など。やさしくて温厚な女性→「優」、「和」、「愛」
●登場人物に類似の名前が存在するのは読者の混乱を招きやすい 例:「徳留良治と徳光政治」(苗字、名前の漢字一部が同じ)、「迫田香奈と多田佳菜」(名前の読み方が同じ)、「中田幸子と仲田幸子」(苗字の漢字が違うが読みは同じ、名前の漢字は同じで読み方が違う)等
●視覚的に似ている漢字の多用は控える 例:「大と太」、「広、宏、拡」、「菜と采」等
●読み方の難しい漢字、今の時代になじみにくい名前は避ける 例:虔前 弥平次、燕城坊 登女 等
性格
性格のキーワードとして、ずぼら、いい加減、向こう見ず、実直、真面目、内向的、社交的、温厚、おしゃべり、無口、無頓着、信頼性豊か、威圧的、その人物の病状などを、ひとり一人に対して性格付けをしていきます。性格の良さ、悪さの反映は物語のおもしろさを左右する要素になりますので、普通の人間よりもすこし極端なくらいの性格を付すことをお勧めします。
身なり
スーツ姿、カジュアルなジャケット、ファッション系、Tシャツ、ファッションに無頓着ないつも同じシャツ、シミや汚れがついたジャケット、足が悪く歩行で杖をついている、など、その人物のキャラクターに応じた自由な設定ができます。
職業
まったく自由な選択ができるのではないでしょうか。会社員、公務員、和菓子屋の主、ガラス細工職人、フリーランスの起業家、会社経営社長、無職、ホームレス、作家、作曲家、画家、詩人など例を挙げればキリがありません。
ただし、その職業についての専門的な知識、情報などはしっかりと入手し、ある程度の理解をしておく必要はあります。実際の仕事姿を描く際に的のはずれた描写は決定的な致命傷となります。違和感を覚えられないように注意することが必要です。
イマジネーションを終えて、登場人物の設定をする段階で、上記の3項目からキーワードを好きなように選定し結びつけていくと、次のような1人の主人公の人間像が誕生することになります。
”内向的だが、いつもおしゃれでカジュアルなジャケットをまとった詩人 門脇 準”

上記の自分の設定したい項目例は常にメモ帳に記録しておいて、すぐに人物を創造できるようにしています。その都度考えずに、アイデアをストックしておくことをお勧めします。
その他の登場人物の設定
主人公と同様に性別、氏名、性格、身なり、職業の設定をしていきますが、主人公ほどキャラクターを際立たせることは避けたほうがよいでしょう。同じような人間性を創るより、タイプの違いを見せることで、相互の人間関係に特異性を見い出すことができるでしょう。
工夫するべき点
脇役には次のような役割を与えると、ストーリーをより面白く発展させるきっかけにつながります。
●主役の個性を引き立てる
●主役の感情を揺さぶり、行動を起こさせる
●物語の歯車として欠かせない存在
登場する人物には文章中には表すことはなくても、それぞれに役割を持たせ、多様に展開させたストーリーを構築するようにしてください。
注意すべき点
主人公との性格の違いなどを明確にし、個性の違いを書き分けることが物語に波風を立てやすくする要素になります。主人公と対立させたり、主役として弱さの目立つ部分を支える脇役など、主人公とはまた違う個性に設定してみましょう。
主人公との対照性などを考慮すれば、
“主人公の友人である話好きで無頓着、いつも薄汚れたジャンパーを着た無職の文学青年 峰 大地”
*特徴:性格がぞんざいでちゃらんぽらん、身なりにこだわりなく、ひたすら文学の道を負い続けるマニア
“理知的で判断力にすぐれ、親のように面倒見がよく、いつもさわやかな笑顔をした文学評論家の先輩 田中 永介”
*特徴:知性にあふれ、頼りがいがあり、はっきりとものを言うがとても憎めない、「門脇準」の先輩
このように性格、身なり、職業を組み合わせた人物を適切に創り上げてください。人物を描写するうえで、髪型、その人の話し方、声質なども物語の展開上に影響を及ぼしますので、実際に本文を記述する際には、気を付けて描写していくことが必要です。

ひとり一人のキャラクターの設定が終わったら、個人単位で経歴書のようなイメージで設定項目をノートなどにまとめています。あとで個人の表現について考える必要のあるときは、見返して確認ができるのでとても重宝しています。
登場人物同士の相関図を作成する
それぞれのキャラクターの設定ができたら、人物関係を示す相関図を作成しておくと、関係がわかりやすくなります。特に長編などにおいて、登場する人物が多い場合には人間関係が複雑になりますので、より明確に整理できます。視覚的にキャラクター間の関係性、役割のバランスが整理され、物語の整合性を保つ助けになります。
相関図には以下の情報を含めるとよいでしょう。
●各キャラクターの名前と簡単な性格・特徴
●キャラクター同士の関係(友情、対立、師弟関係など)
●物語内での役割(主人公、助言者、敵など)
写真は例として上記の3人の人間関係を示したものです。スプレッドシートで作成をしていますが、ワードでも作成が可能ですし、手描きでもOKです。

人間関係を示した相関図
設定に際した全般的な注意点
小説を書く際に、登場人物に特徴を持たせることは読者の印象に残りやすく、物語を魅力的にする重要な要素になります。しかし、設定をする際にはいくつか注意すべき点がありますので、以下にそのポイントと、主人公と脇役の相関関係などを含めた解説をします。
登場人物の設定で気を付けること
過剰な設定や説明を避ける
登場人物の性格や背景を詳細に設定するのは大切ですが、情報のすべてを読者に詰め込ませようとするのは禁物で、物語のテンポが崩れる要因にもなります。「必要な部分だけを見せる」ことで読者に想像の余地を与え、興味を引くようにしましょう。
一貫性を保つ
登場人物の行動や言動においては、その人物の性格や背景と矛盾しないようにしましょう。たとえば、物静かで内向的なキャラクターが突然派手に社交的になると、読者が違和感を覚えます。キャラクターの成長や変化を描く場合でも、「何かのきっかけ」を付すなどの納得できる理由を物語の中で提示していかなければなりません。
ステレオタイプに頼りすぎない
既存のテンプレートやステレオタイプ(ある属性を持つ人に対して多くの人に浸透している固定観念や思い込みのこと)に依存しすぎると、登場人物が平凡で記憶に残りにくくなります。
「女性はか弱くておとなしいもの」、「日本人は真面目で働き者」、「イタリア人は陽気だ」、「ミニスカートは若い人がはくもの」、「老人はパソコンやITが苦手」、「保育士や看護師は女性がやる仕事」
とは言え、「ツンデレな性格」、「完璧な超人」などの類型を採用する場合でも、そこに新しい視点やひねりを加えることで独自性を持たせるようにしましょう。
必要性のない設定を付け足さない
物語の進行に直接影響しないような過剰な設定を増やすと、読者が混乱したり、話の焦点がぼやけたりすることがあります。例えば、キャラクターの過去の細かなエピソードを語る場合、それがストーリー全体にどう影響するかなど、その必要性を十分に考えて取り入れましょう。
主人公と脇役の相関関係
主人公と脇役の関係は、物語全体のダイナミズムを生む重要な要素です。「相関図」の項目で解説したことに加えて、さらにそれぞれのキャラクターの役割と相互作用を明確にし、表記しておくことで、読者にとって魅力的で説得力のある物語が生まれます。
脇役は主人公の成長や物語の進行をサポートする存在
脇役は主人公の性格や葛藤を引き立てたり、物語を進展させるために必要な役割を持つべきです。例えば、主人公が内向的な性格の場合、外向的な脇役を配置することで二人の対比が生まれ、物語に動きが加わります。脇役の行動や助言が、主人公の成長のきっかけとなることも重要な考慮すべき点です。
脇役にも独自の目的と個性を持たせる
脇役は主人公の補佐的な存在ですが、脇役自身にも物語内での目的や動機を与えると、物語がより重厚になります。このことによって、脇役が単なる「機能的なキャラクター」ではなく、「物語の一部を担うキャラクター」として読者に印象付けられることになります。
例えば、主人公を助ける仲間がその助けに見返りを求める動機を持たせてみると、物語に深みが生まれ、新たな発展を持たせることにもつながります。
主人公との対比や共通点を活用する
主人公と脇役の関係に対比や共通点を設定すると、キャラクター間の接点により深みが生まれます。例えば、主人公と脇役が同じ夢を共有しているが、アプローチが正反対である場合、そこに葛藤が生まれます。逆に、共通の経験や価値観を持つ場合、友情や信頼感を強調することができます。
ライバルや敵キャラクターとの相関性
主人公とライバル、または敵のキャラクターの関係も物語において非常に重要です。単純に「悪役だから悪いことをする」という設定ではなく、その敵のキャラクターにも独自の動機や価値観を持たせることで、物語に奥行きが出ます。例えば、主人公が正義のために行動するのに対し、敵のキャラクターは正義を異なる視点で解釈している、という設定は興味深い対立を生むことになりますね。
読者を意識したキャラクターの創造
登場人物を創造する際には常に読者を意識しておくことが大切です。読者が共感しやすいキャラクターを設定すると、物語に読者を引き込む力が強まります。
ただし、自分の考えをまげてでも、読者の意に従って気に入られるようにするのではなく、小説家自身が「このキャラクターは魅力的だ」と思えるような設定を心がけることです。このことが結果的に読者にもその良さが伝わることになります。
まとめ
キャラクターの設定のしかた
あらかじめイマジネーションをした人物像に、具体的に人格を創造していきましょう。性別、氏名、性格、身なり、職業などをあらかじめ想定し、プロット(筋書きなどをまとめた物語の構想)の一部にまとめます。主人公は特に物語の主役として適正な人格を設定してください。
脇役には、ストーリーをより面白く進展させるために次のような役割を与えましょう。
●主役の個性を引き立てる
●主役の感情を揺さぶり、行動を起こさせる
●物語の歯車として欠かせない存在
主人公との対立、または弱さを支える脇役として、主人公とはまた違う個性を創り上げてください。
設定に際しての注意点
●必要以上の設定や説明を避ける
●一貫性を保ちつつ、ステレオタイプに頼りすぎない
●主人公と脇役の相関関係を工夫する
●相関図を作り、登場人物間のバランスをチェックする
●読者が共感しやすい設定を意識する
以上のように、登場人物をしっかりと設計することは、物語の魅力を格段に向上させることにつながります。是非、実行してみてください。
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