小説はプロットを組み立てて全体の構成を考えていくのが一般的ですので(なかにはプロットを立てない場合もあります)、結果的に構成が崩れることはあまりないはずです。しかし、主題の提示のしかたに違和感が生じ、語り方が乱れたり形式が複雑に入り組んでしまい、統一感のない作品ができてしまうこともなくもありません。
私も初期の頃はプロットどおりに書いているつもりでも、途中でテーマがブレて修正するのに苦労した経験があります。物語を書く際には具体的なストーリー・文体・主題で、一貫性を欠如させずに書き進めなくてはならないのです。
初めに組み立てたプロットから一貫した論旨で書き進めるためには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか? この記事では、統一感を引き立てる“主題の提示“と”語りの立場”を考察しながら整理したいと思います。
10の主題の提示法
小説で”主題“というとイメージしにくいかもしれませんが、大きく捉えれば「その作品を通じて伝えたいこと」になります。また、章や段落の規模で「個々に発生する出来事」は主題に伴って展開するものとして扱い、ここでは最終的に伝えたい主題を示すものとして解説します。
私の場合は読者に効果的に主題を伝えたいと常々思っていますので、状況に応じて一作一作に主題の提示する方法を下記の手法から選択して執筆を進めています。
1.演繹法
早い段階で主題を提示し、その根拠や説明を補足しながら結論として主題を導きます。
主題が明確な場合に、「演繹法」は読者を引き付けて、最後まで読ませる深い興味を引き起こせます。逆に観察・論証などからルールを導き出すのが「帰納法」で、ミステリーでは、この2つを組み合わせて物語を掘り下げた演出がよく使用されます。
2.クライマックス法
少しずつ推論を重ねて、証拠を挙げて事実をあぶり出し、最後のヤマ場で結論を出す方法です。この方法で効果的なのは、読者が初めの主張について、解釈によっては「そんなはずあるわけない」と反感を抱いた場合です。主題は露骨にすべてを提示するのではなく、裏付けになる材料・説明を少しずつ加えていくようにします。
読者の感情・気分を有利に引き込み、絶好のタイミングで主題を提示して反感や不賛成の反応を出なくさせる手法です。示し方のコツは読者に「もっともだ」と思わせることです。
特殊な”学校の教室”という空間で始まる、登場人物の緻密に計算され尽くした「告白」。これが徐々に積み重なり連鎖する最後に、主人公が復讐を成し遂げます。過去の断片をつなぎ合わせて伏線を巧みに回収しながら、最後にすべての謎が明らかになる最大のクライマックスが訪れます。
この方法もとても使用されることが多く比較的書きやすいため、私もよく活用する手法の一つです。最後に衝撃的な結末にしたいときに使います。
3.小出し法
いくつかの章・段落などに分けて、具体的な要素を少しずつ提示していく方法です。
「学校運営体制は教員にとって勤務体系が過酷で課題が多い」➡「指導カリキュラム多い」➡「生徒の指導法に多くの課題がある」➡「実例として英語教育は実用化されにくい」
一つひとつの根拠を示し、分析を通して結論を導きます。巧みに読者を誘導できれば、説得力は格段に向上するでしょう。
4.くり返し法
主張したい主題・事項を、章や段落で繰り返し主張する方法で、音楽のフレーズが度々現れるリフレインのように読者に鮮明に伝えることができます。頭の中に特に印象に残りやすく、効果的な方法として多くの名作で使われています。
言葉を繰り返す効果は、特に人間の心に深く植え付けることができると私は思っています。小説作品だけでなく、SNS上での他人との会話・やりとりでもよく使っています。
主題:「障害を超えた芸術愛の縮図、尋常でない美への執念」
佐助という男が目の不自由な主人公・春琴に惹かれ彼女に我が身を執拗に捧げるようとするある種の異常な構成がとられています。物語の全体にわたり、日常的なエピソード(稽古、日常の世話、行動)のくり返しを通じて、究極の愛と美の表現が貫かれています。常軌を逸した愛の主題が主張された名作です。
詩ではよく使用される手法で、各詩節の最後には “Nevermore”(二度とない)という印象的な言葉を繰り返し、深い失意の底にいるような漂いを感じさせています。
5.消去法
反対または対立する主題をやり玉に挙げ、批判をすることで根拠のないことを実証し、支持できるものではないとして消去していきます。最後に主張したい主題を正当化し残しますが、主張したいことを実証する経過がないために、説得力にやや乏しくなるのがデメリットとしてあります。
主題を主張する場合に、実証に困難を要するとき、考えにくいことを挙げて消去していく使い方をします。
6.対比法
取り上げたい主題を反対の主題と絶えず比較対照とすることで論旨を進めます。読者に作者の考え方を多角的に説明することができるもので、他との対比によって作家の考え方の意義、価値観を植え付けやすくなります。

「うちの夫はあそこの蕎麦屋さんが気に入っているようだけど、わたしはあまり接客がいいと思わない」のように、一時的な会話のなかでも対比を使った表現が小説には登場します。主題の提示だけでなく、部分的に使用するのもいいかと思います。
7.逆転法
初めに主題を提示し、次にそれを否定していきます。最後には否定の否定をして、初めの主題を終わりで論証します。
ミステリー作品の代表格としてよく知られた作品です。不思議な十角形の館が存在する離島を訪れた大学のミステリ研究会一員が、次々と連続殺人事件に引きずり込まれます。ミステリー史に残る驚愕の結末が、大局的な逆転法によって導かれている好例です。
読者の予想が最終的に裏切られる驚きと意外性を期待しているときは、効果があります。推理小説で使用してうまく書ければ、素晴らしい作品が書けるでしょう。
8.消極法
読者に反感を抱かせずに、回りくどい言い方を積み重ね、その主題の結論をぼかすように提示する方法です。昭和初期までの「言論の自由」が認められない時代には、この方法で自分の主張を表現していたことがありました。言いにくい内容を丁寧に言葉に表現しているのが次の例になります。
先般は当社の採用試験にご応募くださいまして誠にありがとうございました。総合的な視点からの厳正なる選考を重ねてまいりまして、貴殿の多大なるご努力や誠実な姿勢についても、いささかも過小評価するものではございませんでした。しかしながら、当社が掲げる将来像を鑑みますと、昨今、複雑な業績課題を抱えている当社の現状におきまして、必ずしも最良の結論を得るまでには至っておらず、期待される成果を確実に生みだせる状況にないため、人材の確保におきましても、判断の先送りをせざるを得ないのが現状でございます。つきましては、誠に残念ではございますが、今回は見送らせていただく運びとなりました。何卒ご理解くださいますようお願い申し上げます。」
9.不即不離法
主題を明確に示さずに、章や段落でその主題に対して程よい距離感を保ちながら展開させる方法です。結論をはっきりと述べる必要のないときによく使われるもので、小説のほかに折に触れて気ままに書かれたエッセイなどの文章で主題提示に使われることもあります。
著者自身が「私」として、日常の想い・感情を淡々と描いています。自己の内面と外面に起こる事象に対し、執着しすぎず客観的になりすぎない、巧みに距離感をとりながら心境を掘り下げる短編です。
この物語の主人公の譲治はナオミを妻にめとりますが、支配・従属のようでありながら操られ、またナオミはすがろうとする、まさに不即不離の切っても切り離せない複雑な人間関係が表現されています。
つかず離れずに読者の推論に持っていくのは意外にむずかしいものです。つきすぎてもすぐに想像されやすくなりますし、離れすぎると別の主題に推測されてしまうことにもなります。
10.推論法
読者の関心度を徐々に高め、推論で少しずつ主題を明らかにしていく方法です。各章、段落の論点を追うとその結論に導かれます。これは、読み手の関心度が高いときに効果があります。読み手が提示したい主題を知ろうとする意識が低いと、あまり効果がないとされていますので使用には注意が必要です。
連続殺人の真相を追う刑事が、些細な手掛かりを慎重に筋道を立てて積み重ね、犯人の伏せられた苦悩と潜在的な社会構造の問題点を見事に浮き彫りにしています。

作品のなかで主題をどう提示するかは、プロットの完成とは別に書き始めるときに決めるほうがよりストーリーの発想を豊かに進められます。読者を引き込む有力な手法として、上記10の方法を効果的に活用してみてください。
4つの作家の立場からみた統一性
書く者や作品全体を通じての立場をはっきりさせることも、文章をブレさせない大切な役割を持っています。作品を書く際の立場を明確にし、そのことが文章全体に貫かれていることが必要です。いくつかの立場が考えられますので、それらを解説します。
1.書くテーマ・出来事に対する立場
書き手はあるテーマについて書く場合、それを好感的に書いたり、悪意を持って書いたり、あるいは中立の立場で書いたりと様々です。賛成・同情・好意・中立の考えにある読者にとっては、あまり強気な反対意見などはかえって攻撃心をあおることになりますので、読者の感情を逆なでする書き方にならないようにしなければなりません。
2.書き手の思想観による立場
実際にある思想的な立場に立てば、著者はどう考えているのかは如実に表れます。懐疑的だったり、あるいは楽天的な立場だったり様々ですが、左派、右派、中立の立場によって、書く文章も左右してきます。
発想のしかた、言葉の使い方、問題の取り上げ方、素材の選び方など、思想的な立場で、まるっきり表現が変わってしまうこともありますので、慎重な書き進めが必要です。
日本の国家の成熟時に歴史の転換点に立つ人物について、主体的な個人を基礎とする合理的な世界観に重きを置いて描いています。歴史上の人物や出来事を介して、書き手の持つ「国家」、「歴史」に対する独自のアプローチが繰り広げられている作品です。
極限にある過酷な労働環境に置かれた蟹工船の労働者が、連帯して資本家(監督)に立ち向かう様子が描かれたプロレタリア文学の代表格に位置する作品です。社会主義・共産主義思想に基づいて、貧困労働者と資本家の対立が描かれています。
3.人称の区別による立場
初めに一人の人間がその物語を語るのに、「私は」、「わたくしは」、「俺は」、「ぼくは」、「彼は」、「彼女は」などの人称をはっきりと決めることが必要です。
一人称で語っていたのに、途中から違う人称の「彼」が語り手として語るのは避けなければなりません。統一感がなくなり、読者が混乱する原因になります。
このことが原因で統一感がなくなってしまうことは、作家であればあまり多くないと思いますが、初心者の方にとっては陥りやすいため、注意はしておくべきかと思います。
4.登場人物の区別による立場
一番書きやすいのは一人称や三人称で書くことですが、これらを含め次のような書き方をする作品が見かけられます。登場人物の視点を利用する場合は、特に一貫性を持たせて書くようにしましょう。
26歳の主人公が自分の皮肉な恋愛観を一人称で語っています。
動物を人のように語らせた場合に、人間と同様の行動をさせることは無理が生じることも想定されますが、漱石作品はまったくその不自然さを感じさせません。
語り手は全知的な視点で、音楽家の登場人物それぞれの状況を俯瞰的に語っています。
作品中に「読者への挑戦状」として著者本人が現れ、推理が公正であることを宣言するスタイルがとられています。

少し違った視点で書いてみたいと思ったときには、ところどころに矛盾した内容が発生しやすくなります。それに気づかずにそのまま書き進めると、あとで修正に大変な労力を要することになりますので、細心の注意を払って書くようにしましょう。
まとめ
皆さんはどの提示法が自分に向いていると感じましたか? 主題の提示のしかたを考えることは、小説全体の骨組みをしっかりさせることでもあります。書き始めの段階で作品の構造が頭の中で鮮明であれば、どういう提示のしかたをするのがいいのかが自然に見えてくるものです。それが、作品にフィットしたときには、読者にもしっくりくるものとなるでしょう。
また、語りの立場を明確にすることは、作品にどう波風を立たせながらストーリーを完結させるかという発想に直結してきます。上記と同様に作品の流れが見渡せていれば、どういう立場で書くのが理想的なのかが自然とわかるようになり、効果的な立場の描写が発想できると思います。
主題と立場を固めることは、作品の安定感を支える重要な要素です。作品創造の根底に潜んだ見えにくい概念ですので、落ち着いた構成で魅力的な作品していくためにもぜひ意識しながら活用してみてください。


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