キラリと輝く小説を書くためのヒント~テーマと形式、表現力で個性を表現~

本文を書く

小説は作家の日々の努力で、様々な作品が多く生まれています。読んでもらうためには、他の小説よりも個性的なものを書いて読者の眼に留めてもらわなければなりません。初期のわたしの作品でも、あとから読み返すと淡々としていて、書き直したいと思うような作品も出てきます。

この記事ではいろいろな角度からより作品に特徴を持たせるヒントを共有します。ちょっとした意識を持つと、作品の性格はずいぶん変わりますので試してみてください。

作品の性格を構築する

作家の文章にはそれぞれ個性があり、それが持ち味になります。その持ち味が読者に浸透している作品にはどのような特徴があるのかを解説します。

1.テーマに好奇心を誘う

読者が好んだり、強く惹かれるテーマには、知らずのちに熱量がこもり読まずにはいられない気持ちにさせるものです。わたしにも、寵愛している作家はいくつかあって、エドガー・アラン・ポウの短編集などは原文とともに愛読しています。文章が奇怪さを煽り、それぞれのテーマが読者に異質な期待感を抱かせる魅力を具えています。

このように、テーマから想起される物語の核心が表出していると、作品の好感度のアップにつながることが多くあります。

👉例1:

夢野久作『ドグラ・マグラ』

タイトルの意味は作中では意味がはっきりと定義されていませんが、長崎県の方言で切支丹(キリシタン)や宣教師(バテレン)が使う魔術を指すとも、堂々巡りの目くらましからくる「戸惑い、面食らう」がなまったものとも言われています。
迷宮入りのような物語の展開を暗示されていることから、読者の好奇心を誘う効果を持ちます。
半蔵
半蔵

わたしの短編のタイトルでも『Just Kidding』(なんちゃってね)というユニークなタイトルのものがあります。

2.ぎこちない違和感をさりげなく

非の打ち所がない物語よりも、少しぎくしゃくした人間関係の描写や話の手詰まりな部分を見せることは、逆に読者に不安よりも関心を抱かせる一因になります。

👉例2:

●吉本ばなな『キッチン』

作品は明るい半面、その文体には「死」や「喪失感」のテーマが違和感として潜んでおり、心地よさと切なさが同居する不思議な作品です。

●村上春樹『ノルウェイの森』

登場人物同士が時には近づいたり、また離れたりしなつつ、決して「すっきりと理解し合えない」関係が築かれて続けていく不安定感が持ち味になっています。

●三島由紀夫『仮面の告白』

自身の欲望と社会との距離感が縮まらない焦燥感にかられ、他者との関係がぎくしゃくしていく主人公の姿が克明に描かれています。

3.矛盾や不完全さは読者の感覚を研ぎ澄ます

すべてを整然とまとめるよりも、少し尖った要素や違和感を残す方が「著者」の特徴として印象が強く残ります。「これは何だろう?」と引っかかる部分を残すことが、個性として記憶に残りやすくなります。

👉例3:

●安部公房『箱男』

自分の身を守る行為として「箱の中に閉じこもる」という選択をした人間が、自由と不自由、存在と不在の対称的な矛盾が描き出されています。断片的な物語の展開で、一層不完全さが作品の包み込んでいます。

●三島由紀夫『金閣寺』

美の完全さを追求しながらも、自らの内面の醜さから生じる葛藤、矛盾に苦しむ青年の告白。「完全と不完全の対立」が読者の感覚をあおり立てているようです。

形式を工夫する

小説の外観からみたオリジナルな構成と特徴もまた、読み手にとって想像力を駆り立てることにつながります。わたしは読む前の「見た目の印象」というものを特に大切にして読者の気持ちを引き込むようにしています。

1.リズムで組み立てる

読んでいてリズム感の高い作品は、読者の「読む」意欲を一層高めます。読みやすい文章や、連続した短い文章の連なりはテンポよく話の先に進めることができる大きな要素になります。

👉例4:

●谷崎潤一郎『春琴抄』

古典的な語り口をから、リズムのある格調高い文体が続きます。朗読などで聴いてみると、一層文体の美しさが響き渡るのがわかります。

●村上春樹 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

たまに見かける形式ですが、二つの物語が交互に展開していきます。両者にそれぞれの特徴を持たせ、片方は淡々と、もう片方は幻想的で柔らかな調子が章ごとにリズムの変化を際立たせています。

●横光利一『機械』(新感覚派)

断片的な視覚描写が次々に語り手(主人公)によって語られます。これらが組み合わさり、文章に「視覚映像の生み出すリズム」をうまく持ち込んでいます。

わたしの作品に『ミニチュア西洋音楽館』という一風変わったものがあります。これは各章を音楽館の展示室に見立て、各音楽的展示物を3行から5行程度で描いたもので100編ほどから成り立っている短編です。芥川龍之介の『侏儒の言葉』から構成のヒントを得ています。

半蔵
半蔵

既存の作品から様々なヒントを得ることは、いい刺激になることが多いです。自分の思考のなかで、いいアイデアとなって作品に反映できることが多分にあります。

2.章立ての工夫

作品の章立てが論理的に一定のルールで整理されていると、読者はそのリズムから作品に入りやすさを感じ、多くの方が読んでくれた経験がありました。前述した『ミニチュア西洋音楽館』は、ひとつの展示室をひとつの章に見立て、7章の展示室を構成し、各章に短い展示物(文章)を並べる工夫をしたところ、いろいろな方に読んでもらえて大変好評だった記憶があります。

👉例5:

●夏目漱石『夢十夜』

「十夜」という形式そのものが章立てをリズム化しているのが、タイトルからわかります。十章で構成される夢想風な断片ですが、その断続感が作品の特質として印象的であり、よく親しまれている作品です。

●川端康成『掌の小説』

いくつもの超短編を集めた形式で、一つひとつが断片的でありながら、全体でリズムが感じられ、独特の読み心地感があります。

3.反復の構成

ある種の音楽で同じリズムや旋律が繰り返されると、聴き手の頭に残りやすいのと同様に、文章の反復性を採用するとその作品に特徴を生み出します。読者の頭に残りやすい印象をもたらすことにもなります。

👉例6:

●川上未映子『わたくし率 イン 歯ー、または世界』

まずタイトルが奇抜なところに関心がいき、関西弁の一人称語りとともに、割と長めの文と語句の反復が独特のリズムを形成します。現代小説として、とてもユニークに個性豊かな一面を持っています。

町田康『告白』、『道祖神爆発』など

いずれも音楽的なリズムを伴い、語句の反復によって、強烈な印象のある文体を構築している作品です。

森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』

古風なイメージを具えていますが、とても諧謔的な文体です。語句や構文の反復が多く見られるのが特徴で世界観が魅力的になっています。

表現力に特徴を見い出す

1.語り手の語り口と文体

語り手の工夫で作品の性格に大きく影響が出ます。登場人物の一部の人間が語ったり、第三者が登場人物の全ての内面を知る全知視点、また無機質な記録文のような性格の作品にもなります。作品中の文章の音色が違えば独自の味わいになります。

作家の文体にはその人の個性というものが必ずあります。また、文体というものは勉強したから、指導を受けたからといって、すぐに身につくものではありません。作家の文体は日頃の経験と訓練によるところで、「書く」という行為の積み重ねから生まれるものになりますので、自身の特質や個性を磨きながら書き続けられる作家を目指しましょう。

半蔵
半蔵

注意点として、同じ章のなかでは少なくとも視点を変えることはしないようにしましょう。複雑な視点の多用は一般にNGです。

2.登場人物の個性を出す

人にはいろいろな個性があります。ずいぶん変わった人もいると思いますが、個性のある人を登場させると、その個性が物語の面白さを引き立ててくれます。

👉例7:

●村上春樹『海辺のカフカ』

「はい、ナカタは皆さんをがっかりさせたくはありません」

この話法は物語を全体を通して展開されています。ナカタさんは言葉中に必ず自分のことを「ナカタ」と入れる性格で、一貫した表現が読者に逆に面白さと物語のの期待感を持たせる効果があります。

3.小さな執着心を植え付ける

作家の個人的なこだわりや、日常の中でしか気づけない行動仕草習慣(例えば靴紐の結び方や朝の光を必ず浴びる習慣など)を盛り込むと、読者に「その人にしか書けない感覚」として伝わります。ほかの人間がしないような表現に取り入れてみるると、読者は粋なこだわりにハッと気づいてくれるかもしれません。

👉例8:

小川洋子『博士の愛した数式』

数学への深い愛情と、記憶のはかなさへのこだわりが感じられる作品です。数字の美しさを繰り返す描写にオリジナル性を感じます。

まとめ

テーマに魅力を持たせ、リズム章立て反復などから「おやっ?」と思わせる形式の工夫語り手や登場人物に個性を持たせた文体、ちょっとした粋なアクセントを添えたりすることで、より引き立つ小説に輝くお話しをました。

「題材」そのものに変化をつけることもありますが、比較的 作者の感覚・視点・語り口の言葉遣い が、視点に彩りを添えて独自性を生む大きな要因になり得ます。

これらの手法を使うと読者の好奇心、違和感、矛盾感などを抱かせ、逆に不完全さからくる好奇心を誘うことができます。作品の魅力を際立たせるヒントとしてぜひ活用してみてください。

 

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