小説は細かなルールに沿って書くよりも、自分の手法・考え方に基づいて書いていくものです。細かいことを除いて、日頃から少し心に留めておくだけで、味わい深い文章をつくれる7か条をこの記事でご紹介します。“小説家のたしなみ”として知っておいて損はありません。きっと役に立つときが来ることと思います。
心に留めておきたい、小説家としての「“味わい深い文章づくりをたしなむ”7か条」
ここに挙げる原理原則はそれほどむずかしいことではありません。できそうなことから意識しておいて、品格の漂う文章が書けるきっかけになれば幸いです。
前半3つは「気持ちの持ち方」、後半4つは「行動のしかた」として少し意識をするだけで、文章の出来に違いが出ます。
(各例については、半蔵がこの場の事例として創作したものです)
1.執筆は穏やかな気持ちで
特に気が散漫になっているようなときは、小説の文章は書けるものではありません。そのような状況では机に向かってもその気持ちが文章に現れてしまい、結局、気に入らずにあとから書き直したりすることが往々にしてあります。
アイデアの思いつきによる気のたかぶりは、執筆がはかどる良い要因となりますが、仕事や生活上で体験したネガティブな気持ちを引きずるのは影響が少ないとは言えません。一日の生活では、よいことも嫌なことも起こりますので、まずは気を取り直すことが重要です。
基本的に執筆は気分の良好な時に、落ち着いた気持ちで始めましょう。また、ダラダラと時間を取るのであれば、短い時間で想定しているアイデアを書いてしまうほうが経験上、よい文章が書けます。
あらかじめ、プロットを作成していれば、「今日はこの場面を全部書き切る」、「次の章の切りのいい段落までに完成させる」というように、目標を立てやすくなります。

プロットを忠実に再現させて作品を仕上げるタイプの方なら、1回で書く分量の目標を決めて日々の進展を感じるようにしてください。気持ちを引き締めることによって、はかどる効果は絶大です。
2.複眼的な思考は発想力を促す
ひとつの事象から次の展開に進むときに、いくつかの展開をひねり出して、その中から一番ベストな展開を選定します。この手法は手間のかかる作業と思われるかもしれませんが、作家としての発想力は豊かに成長し、創造力は大きく養われます。
日頃から一つの出来事に対して、「他の人ならこう考えるのではないか」という別の視点も併せて持つことは、発想する力を2倍、3倍と高めることにつながります。視野を広げる意味でも、複数の視点を持ち、より豊かな発想力を養いましょう。
👉例: 一人の男がある理由で、道を急いでいた。
1つ目の発想:父親が危篤と病院から連絡を受け、現地に向かって行った。
2つ目の発想:さっきから、見知らぬ男が付けている気配を感じていたからだ。
3つ目の発想:商談の時間に間に合わない恐れを案じて、息せき切って走っていたのである。
いろいろな場面が想定できると思いますが、あなたなら、どう続けますか? これは、小説のジャンルによっても異なりますが、純文学であればいずれもありえますし、ミステリーであれば2つ目が考えられます。まだまだ様々な想定が可能です。
3.常に生産的な創作意識を忘れずに
「前向きな気持ちで執筆に臨みたい」という想いは、日頃から多くの方が意識していることと思います。知識の習得に旺盛であり、自分の作品に活かす意欲が小説家にはなければなりません。それは執筆を継続することで育まれるものであり、“長年執筆してきた時間”というものがあとで貴重な経験となるのです。
4.常套手段はなるべく避ける
定番、定石のストーリーよりは、斬新で独創的なアイデアは小説ファンには好まれるものです。構成やストーリーにひとひねり加えた作品は総合的に引き立ち、他の作品に差をつけることができるのです。
「人と違う考え方を持つ」ことや、「人のしないことをする」と思うのは、芸術家の心情のひとつとして知られています。私も一つの性分として以前からあったため、このような思考をもつことは、作品の優位性につながるのではないかと思うようになり、“7か条”のひとつとして加えたものです。
5.漢字とひらがなのバランスを考える
文中の漢字、ひらがながそれぞれ与える印象は対照的に変わってきます。作品の性格で漢字、ひらがなをうまく使い分けることが必要です。
概して、硬い印象を与えたい作品は漢字を若干多めに組み合わせ、柔らかい作品の場合はひらがなを増やし、中間に位置するものは程よいバランスを備えているのが一般的です。
6.地文と会話のバランスを意識する
小説の紙面の印象は漢字とひらがなのバランスに加え、“地文”と“会話の部分”のバランスも大きく影響してきます。
地文は長すぎると深読みしてもらえず、斜め読みをされてしまうこともあります。紙面の余白を敢えて確保したり、会話文を適度に織り交ぜると読者が受ける視覚的な負担が和らぎます。
仮に新しい小説を書き始めるにあたって、地文から始めたとします。入り口からそれがいきなり、5ページくらい続くとどうでしょうか? 読み手の気持ちを察してみてください。小説は紙面の密度の濃淡をつけると文字を追いやすくなりますので、心がけておきましょう。
👉読みやすい文章例:
地文と会話文が織り交ざった例ですが、紙面上の余白もあるので読者の読む意欲を削ぐことは少なくなります。

「地文と会話のバランス」はそのひとつ前の「漢字とひらがなのバランス」とともに、執筆の際にはぜひ併せて覚えておくと、体裁上の問題の解決として役に立ちます。
7.作品の形式の持ち味を活かす
小説作品にはいくつか性格上の形式が存在します。また、それぞれの形式には素晴らしい持ち味というものがあります。
●「ナレーション形式」:最も使用される形式で、神の視点、あるいは客観的な記録者の視点から物語が語られる。1人称はキャラクターの主観的な語りで、心情に深く没入させることができる。【👉例:『注文の多い料理店』(宮沢賢治)、『吾輩は猫である』(夏目漱石)】
●「モノローグ(独白型手記)形式」:登場人物が自分の内面、思考、感情を、あたかも自分自身や読者に向けて語りかけるように記述する形式。深みを持たせた表現ができる。【👉例:『地下室の手記』(ドストエフスキー)、『人間失格』(太宰治)】
●「日記形式」:登場人物が書いた日記の記録を読み進める形で物語が展開される。人物の内面性や日常の描写に長け、読者をその世界に引き込む力は強い。【👉例:『放浪記』(林芙美子)、『瘋癲老人日記』(谷崎潤一郎)】
●「書簡体形式」:登場人物が交わす手紙のやりとりだけで物語が構成される形式。書き手の主観的な語りに感情移入しやすく、味わいが深い。【👉例:『三島由紀夫レター教室』(三島由紀夫)、『往復書簡』(湊かなえ)】
●「インタビュー・対談形式」:1人以上の人物へのインタビューや対談でまとめた形式。真実が徐々に解き明かされるドキュメンタリー性を秘め、質問と回答の形式による臨場感で物語の真相へと導ける。【👉例:『音楽珍事絵図』(栗山丈)】
●「メール・ブログ・SNS投稿形式」:メールのやり取りやブログ、SNSの投稿などをつなぎ合わせた現代的な形式。読者との距離が一層近くなり、リアルタイム性を感じさせる。【👉例:『白ゆき姫殺人事件』(湊かなえ)】
●「伝記・評伝形式」:架空の人物や歴史上の人物の人生を、第三者として記録・調査した形式で描いたもの。史実に基づいて作者の視点で批評や分析され、人間像を深く掘り下げられる。【👉例:『竜馬がゆく』(司馬遼太郎)、『渋江抽斎』(森鴎外)】
●「台本・脚本・戯曲形式」:ト書き(行動の描写)とセリフだけでシンプルに構成された形式で、小説とは設計図との観点で区別される。【👉例:『父帰る』(菊池寛)、シェイクスピア『ロミオとジュリエット』など】
👉例:日記小説の例
これらの形式が持つ強みを活かすことは、以前に作家の仲間から「スタイルに合わせたおもしろさを引き出すことが大切だ」というひと言が、やがて私の信念のひとつとなって“7か条”に加えたものです。
まとめ
「落ち着いて」取り組むことは何事にも言えることですが、創作活動においては特に感情の乱れは出来に大きく影響します。アイデアの発想で気を昂ぶらせるのはよいことですが、他のことが気になってしかたがなかったり、執筆の手が止まるほど興奮した状態では控えましょう。
あとは複数の視点を持つことは柔軟な発想力を育みます。「生産的意識」を持って「変幻自在(常套手段でない)」な発想で味わいのある文章が書けるほどになると本当に心もワクワクして楽しい執筆活動になるはずです。
物語の性格にあった「漢字とひらがなのバランス」を上手にとりつつ、「地文と会話のバランス」が調整された読みやすい文章を書いてください。
そして、小説の形式を理解し活用しましょう。言葉では言い尽くせない「形式の持ち味」がありますので、その作品の味わいを引き出せると読者はその作品に引き込まれていくのです。
物事に従事するときには、信条を持つのがよいとされています。執筆の場で考え方に迷いがあるときは、ぜひこの「“味わい深い文章づくりをたしなむ”7か条」を執筆の際に参考にしてください。


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