小説を書き始める段階でいきなり書き始めるよりも、“小説がいかに進展し、主人公が何を求めてどのような困難に直面して、どう結末に至るのか” を小説全体の骨格としてあらかじめ示しておくと、ブレずにしっかりとした構造の作品が書けると言われています。
その全体の概要を示すプロットを作成していくにあたり、プロットを作成する意味やタイプ、そのメリットなどを解説していきます。自分自身でどのようなタイプのプロットをつくるのがよいのかを判断し、その作成方法をマスターしていきましょう。
プロットとは何か
プロットの定義
プロットは小説全体の構想を立てておき、内容の調整を図りながら全体の流れを構築する設計図にあたるものです。
プロットの作成方法にはさまざまなタイプがあり、小説家がそれぞれが使いやすいものを使用していますので、どんなタイプのものを使用するかは自由となっています。
●プロットを作らなければならない意味がわからない
●プロットの作り方がわからない
上記の二点でお困りの方は以降でご紹介しますので、自分にあったものを選んで作成してみてください。
初めて小説を書く方はプロットの作成意義などで悩まれることが多いと思いますが、なぜプロットを作る必要性があるのかを以下で説明します。
プロットの重要性
プロットは、物語のあらすじや世界観、登場人物の設定、展開、結末に至るまでを具体的にまとめたものですので、小説の執筆でプロットを活用すると、それだけ時間と労力をかけるだけの効果が期待できます。
物語の全体を把握し、矛盾のないストーリーを組み立てる意味でも、プロットはあらかじめ作成しておいたほうがいいでしょう。どんなものでもそうですが、設計されたものは土台がしっかりしていて、精密に完成されています。小説で言えば、ストーリーの矛盾などを防ぐことができて、全体を俯瞰しながら途中で方向性やシーンを調整することが可能となります。
小説を書くうえで、プロットを作る小説家は多いですが、なかにはプロットに頼らずに直に本文を書く方もいますので、必ずしも強制するものではありません。
また、どの程度まで作り込むのかはその小説家の考え方次第で千差万別です。あまり細かく作り込むと、本文を実際に書いていく段階での発想などが活かせなくなることもあります。あまり詳細な設定までは反映させることは必要ありません。本文を書く際に、肉付けや調整をしていくようになります。
プロット作成のメリットとデメリット
プロットを作ることのメリットは作らないよりもその価値は高いと言われています。多くの小説家がプロットを活用していますが、ただ創作過程上で発想される豊かな創造力が一部損なわれることもあるため、作り込む限度に注意が必要です。
メリット
話しの筋を揺るがさない
プロットを作らないで書き始めることに比べて、各章のある程度の構想ができていますから、全体から見たストーリーのブレがなくなります。本文を執筆する段階でも話が余計な方向にそれたり、ニュアンスがおかしくなったりするのを防ぐことができます。
ストーリーの調整がいつでもできる
各章中のそれぞれのシーンを一つの単位としてプロットを組み立てていますので、いかなるシーンの内容の修正・変更が容易で、大きなシーンの調整なども入れ替えがスムーズに行えます。何かしらのデータで作成していれば、シーンの入替えなども手間をかけずにできます。
伏線の設定が効果的にできる
文章中の要所にほのめかす伏線を計画的にプロット内に埋め込んでおくと、「伏線の回収」において、どの段階で回収が効果的にできるかの判断がしやすくなります。
また、小説の筋全体から俯瞰した伏線の設定は回収とのバランスを取ることができますし、設定の矛盾などもあらかじめ防ぐこともできます。
複線の設定については伏線の張り方と回収のしかた~読者の期待を裏切らない物語の効果~をご参照ください。
執筆が比較的円滑に進む
プロットを正確に作成したあとは、それにそって書き進めていくことになりますので、スムーズな執筆作業ができます。途中でプロットの内容に矛盾を感じたら、適宜、見直しをかけて修正していくようにしましょう。
出版者との相談の材料になる
将来的に、小説家は出版社がと関わり合いを持つような機会に「企画書」を作成し、出版者にアピールをするようになります。「企画書」は次のような内容を備えています。
出版はこの企画書などをもとに、企画会議により決定されるのが一般的ですが、このときにプロットを参考にして相談するようなケースが見られます。
デメリット
思いついたアイディアを勢いに任せて書いていきたいという気持ちと相反する点がありますが、次のようなことが考えられます。
労力と時間がかかる
プロットは全体の構造を組み立てるため、ある程度の時間がかかります。準備に時間をかければそれだけ土台はしっかりしたものになり、磨きのかかった作品が仕上がることになりますので、その完成度は高いものになるでしょう。
柔軟な発想が阻害され、思い描いていたストーリーが輝かなくなる
発想の豊かな小説家は本文を書いている過程でアイデアにあふれ、どんどん書き進めますので、プロットの作成をしない人もいます。プロットを使わなくても、創作過程の段階で話の展開が歪まずに本文を書ける場合には必要がないケースも確かにでてくるでしょう。
プロットの種類と作成方法
最も使用しやすい形式で、物語全体を整えていくことがプロットを作成する目的になります。一定のルールのようなものは特に定められていません。それぞれ小説家が工夫を重ねながら、効果的なプロットを作成しているのが現状です。
箇条書き型プロット
ひとつのシーンを単位として、あらすじ、せりふを箇条書きにして書き足していくタイプのものです。思い付きのまま書いていき、途中で自由に書き直しながら作成していきます。後々でシーンを自由に入れ替えることもします。
タイトル:未定(どの段階で決定しても構わない) 第一章より
●ある寒い日の朝の駅までの通勤途中、一郎はコンパクトな丸い形状の奇妙なものを道端で見つける。それを拾って、仕事場まで持ち帰る。
●自席で仕事をしながら、少しずつそれを眺め、いじる。いったい何に使うものかもまったくわからずに、自宅に帰って妻の紗枝に話すが相手にしてもらえない。「そんな気味の悪い物さっさと捨ててしまいなさいよ」
●妻に強く言われて、処分にどうしようか悩んでいた一郎はどうにも捨てがたい気持ちが抑えきれずに、ただジッとその物体を眺めているばかりだった。しばらくすると、その物体は以前よりも一回り大きくなっていることに気が付いた。「――何だか、変な様子だな……」
●一郎はそのまま抽斗に入れておき、忘れかけていた。三日後の朝、目覚めると室内は大きなもので圧迫されていて、心臓が飛び出るほど驚愕した。それは抽斗から飛び出ていた不思議なかたちをしたものだった。 ……(続く)
メリット
準備の時間などはそれほどかからずに、気軽に作業ができること、データでも紙・ノートでも容易に書き出して、文言・文章の修正が自由にできることなどが利点です。データの場合はそれをもとに細かい部分を肉付けしながら本文を作成していくことができます。
デメリット
紙上で書いた場合は、取り消し線などを引いて修正していきますが、データの場合は修正履歴などは残りません。また、プロットが最終的に本文に溶け込んでなくなってしまうため、このプロットを残しておきたい場合は、別途保存をしてから本文を書き進めましょう。
5W1H型プロット
When(いつ), Where(どこで), Who(だれが), What(何を), Why(なぜ), How(どのように)を骨格にして、シーンごとにまとめ上げていきます。
タイトル:未定 第一章 シーン1
いつ:江戸後期徳川慶喜時代 どこで:本所回向院のはす向かいの小さな長屋 誰が:主人公留吉8歳 何を:江島杉山神社の境内で、近所の友と石蹴り遊びをしていた なぜ:親の蕎麦屋台業のじゃまになっていたため どのように:年下の子分を何人か引き連れて
メリット
デメリット
エクセル表型プロット
例えば、シーンを一つの単位として縦軸に時間軸、横軸に[状況]、[主な会話]、[備考欄]、[登場人物]などを示したエクセル表を作成し、そこに各内容を埋めていくタイプのものです。
タイトル: | 主人公: | 手順①シーンを順不同で書きだす。
手順②矛盾のないようにシーン単位で並べ替える。 |
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章 | 節 | シーン | 状況 | 主なせりふ |
備考 (伏線等) |
登場人物 |
はしがき | ||||||
第1章 | ||||||
第2章 |
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第3章 | ||||||
第4章 | ||||||
第5章 | ||||||
第6章 |
小説のあらすじをイメージして膨らませるテクニック~イマジネーションはストーリーを育む~で解説したような手法を取った場合には、時間をかけて頭の中で描いたあらすじをこのエクセル表に整理をしていきます。各章内では下段に行を増やすなどして、もう少し細分化する工夫をしても構いません。
新規に作成していく初めのアイデアの洗い出しの段階では、考え出したアイデアを思い浮かんだ順に上から入力していきましょう。出し切った段階で、それらの各アイデアを矛盾のないように構成し直してまとめあげていくようにします。
メリット
章単位で見やすい形でまとまりますので、シーンや状況、登場人物などが明確につかめることができます。
デメリット
本文は別途、新たに書き始める必要がありますが、ポイント事項をプロットからコピーペーストをしながら書き進めることになります。

新たにストーリーを構成し直したり、追加したりすることが簡単にできるので、長編、短編ともに原則的にこのプロットの方式を採用しています。
あらすじ肉付け型プロット
あらかじめ、イマジネーションによって、つなぎ合わせ終わったあらすじ(小説のあらすじをイメージして膨らませるテクニック~イマジネーションはストーリーを育む~ を参照)に地文と会話文を付加させて、プロットと言える段階まで肉付けをしていく方法です。
メリット
文章を肉付けしていくことでは箇条書き型に類似していますが、先行して完成しているあらすじを活用していく作業です。新たな構成のアイデアを考えて作成する必要はありません。主要部分はできあがっていますので、おおまかな肉付けをしていくようになります。
デメリット
最終的にプロットが本文に溶け込んでしまいますので、プロットは残らないことになります。プロットを残しておきたいようでしたら、完成版を保存しておいてください。
ポストイット型プロット
ポストイットを用意し、各章単位で「状況」、「せりふ」、「登場人物」の三つの項目別に書き出していくものです。A4またはA3の白紙に章単位で貼り出します。できれば「状況」、「せりふ」、「登場人物」は色の異なるポストイットを使用すると区別しやすくなります。
メリット
プロットの構成を変更したり、修正する際には貼り出したポストイットを貼り変える作業が容易にできます。完成すれば、視覚的にはわかりやすいプロットになるでしょう。
デメリット
紙上での作業となるため、データで残しておきたい場合には、各章のプロットの写真を撮って保存するか、または新たにデータ入力を行い、プロットとしてまとめる必要があります。
効果的なプロットの書き進め方
基本的なアプローチ
初めから順番にプロットを組み立てられる作業は、事前にイマジネーションなどであらすじが完成しているケースになります。組み立てたあとに少しずつ肉付けを行います。
上記のケースでない場合は、思いついたアイデアの順番に書き出しをしていきます。その後に章単位で、アイデアの順番を整合性を保ちながら矛盾のないように組み立てていきましょう。そして少しずつ肉付けをして完成させていきます。
注意点とコツ
プロットを作成する際は、「ほどほどに、そして簡潔にまとめる」ことを念頭に置いて書き始めましょう。
初めからこだわりすぎて綿密に書いてしまい、プロットそのものに満足してしまうと、本文を書き上げるモチベーションが下がり兼ねませんので、悪影響が及ばないように気を付けてください。
途中でよりいいアイデアが湧いたりすることもありますので、本文を書き始める際の肉付けの部分で更なる発想を活かしていくとさらに充実してきます。

新たな発想は突然頭に浮かぶもので、その発想も大切にするようにしています。プロットが完成しているからと言って、その時に思いついたアイデアはメモ帳にいつまで残しておくことはしていません。完成しているプロットに新たに組み込み、全体を修正するようなケースも頻繁に生じています。
プロット作成のためのツールとリソース
小説を書くためのソフトとして、近年はプロット作成機能を有するものが多数ありますので、ご紹介します。
Nola
小説家専用の優れた創作プラットフォームです。起承転結などの構造管理ができるようになっていて、時系列のシーンを自動で追加でき、作成に必要な資料管理についても充実しています。慣れれば便利なツールとして十分活用ができます。AI読者ネコのヨミスケから感想をもらえるのがとても嬉しい機能です。(一部無料、300円/月、年払いで2800円)
メリット
プロットの作成時から時系列の調整が可能であって、登場人物、世界観、相関関係などの設定ができます。タイトルはもちろんのこと、ジャンル、カテゴリ、予定文字数の登録、メモなどができるようになっています。スマートフォンとの共有が可能です。
デメリット
多機能ではありますが、操作が慣れないと使いにくい面も出てきます。無料プランは使用する場合は機能が限定されますのでご注意ください。マルチ執筆モード、縦書きプレビュー、共有リンク(3つまで)、原稿の設定、資料テンプレート、フォルダの分割などはできませんのでご注意ください。
Notion
機能性の高いメモアプリです。プロット専用に使われているわけではありませんが、各シーンをカード単位で作成し、容易に分類や並び替えをすることができます。
メリット
使い慣れれば機能性が高いため、プロットのツールとして実用的に管理できます。カード式のプロットですので、各カードをドラッグで並び替えや分類することが簡単に行えます。アイデアの整理、ストーリーの構築が大変しやすくなっています。
また、カードへのタグ付け、細かいメモを追加することができますので、ストーリーの複雑性にも耐えうるツールとなります。
また、「Notion AI」が付属されていますので、質問しながら様々なアイデアの情報を入手することができます。
デメリット
自由なカスタマイズが可能で様々な機能が利用できるために、このツールに特化しない人にとっては難しさを感じたり、抵抗感が出てくるかもしれません。「Notion AI」に高度な知識を要求した場合には有料となり、月の使用回数制限もあります。
グーグルスプレッドシート
インターネット環境があれば無料で誰でも利用できます。Googleが無料で提供しているオンライン上で共有可能なエクセルシートです。上述のエクセル表型プロットを使う場合は、このグーグルスプレッドシートを使用してみてください。
メリット
共有の機能から、パソコンやタブレット、スマートフォンからでもログインできます。入力事項が自動保存され、シート内にリンクを貼ったり、シートや範囲の並べ替えなどの機能が通常のエクセル以上に充実しています。
通常のエクセルデータをグーグルスプレッドシートにアップロードしたり、グーグルスプレッドシートからエクセルにダウンロードも可能です。
デメリット
オフラインの状態では利用ができませんので、通信障害のときなどには利用ができません。また、共有範囲を第三者まで設定してしまうと、情報が洩れてしまうなどのセキュリティのリスクが想定されます。
Googleは他のGmailなどのすべてのサービスを含め、容量制限が15GBまでとなっています。他のサービスの容量が圧迫している場合は注意が必要です。
著名作家のプロットの紹介
ここで、ミステリ作家の貴志祐介氏のプロットの一部分を引用してご紹介します。参考にしてください。
『天使の囀り』より抜粋
※『呪われた沢』でのエピソード
…………………………
蜷川武司(文化人類学)、赤松靖(植物学)、森豊(霊長類学)、高梨光宏(作家)白井真紀(女性カメラマン)の五人は、アマゾン最深奥部を探検している途中で、道に迷ってしまった。以前に地図が描かれた時とは川の流れが変わってしまっていたのだ。アマゾンの探検は、少人数、軽装備が常識である。このため、食糧が底をつき、野生動物を射止めるしか方法がなかった。
だが、そのあたりの川は『飢餓の川(リオス・デ・フォーメ)』と呼ばれる、酸性度が強く栄養塩類の乏しいコーヒー色の川であり、魚は、まったく釣れなかった。しかも、高梨の不注意からカヌーをひっくり返してしまい、弾丸をすべて失ってしまった。
彼らは、いつの間にか、カミナワ族が『呪われた沢』と呼び、近づかないように警告していた場所にやってきていた。(→森の聖母(マドレ・デ・モンテ)=クルピラなど?)
ようやく帰り道は判明したものの、すでに日が暮れかかってきていた。途中でオンサ(ジャガー)に出くわすと危険なため、やむをえず、空きっ腹を抱えて夜営することにする。(ジャガーは、人間に興味を抱き、後をつけたりする習性がある)森の中は、枝に帰った無数の鳥の囀りで満ちている。
(つづく)
【『エンタテイメントの作り方 売れる小説はこう書く』より (角川新書)2017年10月10日初版発行】
まとめ
プロットの重要性と種類
プロットは小説全体の設計図で、本文執筆に先立ち、物語の展開、登場人物の設定や結末をあらかじめ明示するものです。しっかりとした構造を持つ作品を作るために、プロット作成を欠かすことはできません。
メリット
●物語の筋を揺るがさない
●ストーリーの調整がいつでもできる
●伏線の設定が効果的にできる
●執筆が円滑に進む
デメリット
●労力と時間がかかる
●柔軟な発想が阻害されることもある
プロットの種類
●箇条書き型
●5W1H型
●エクセル表型
●あらすじ肉付け型
●ポストイット型
効果的な書き進め方
基本的なアプローチやコツを学びながら、アイデアを活かしつつ柔軟に対応することが大切です。 プロット作成の意義と種類、手順を理解し、自分に合った方法を見つけて実践してみましょう。
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